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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

上役の権威を誇示して、睨めつけるのであった。伝八郎は、争うことの愚を悟った。荘田下総守といえば、柳営でも人の知れる柳沢出羽守股肱である。吉良を庇うために感情的になっている出羽守の代弁者と、いかに、争ってみた所で、軽輩の云い分が通るはずはないのである。

ところへ、表方の取次人が、

『殿にまで』

と、右京太夫の側へ寄って、何か、低声で告げた。

右京太夫は、当惑な顔いろをしながら、

『御検使まで伺いまする』

『何でござるの』

『先刻から、内匠頭の家中、片岡源五右衛門という者、邸外に立ち迷って居り、何と申すも、いっかな立ち帰らず、是非是非主人に一目会わせてくれいと云い張って、当家の者共も、当惑の由にござりますが、願い出の儀、如何いたしたものでございましょうか』

『さ? ……』

下総守は、横を向いて、答えない。

伝八郎は彼の顔を見て、返辞を求めたが、要領を得ないので、よしっ明日に官禄を捨てるとも、せめてこの一つはと、意を決して、

『よろしかろう、武士の情、拙者が承わっておく。会わせておやりなされい』

『はっ、では』

と取次人は、足早に戻って行った。

床几や、福草履が、庭先に出される。