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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
天狗風
一
「意見ならよいが、よも煽動などではあるまいの。何か、源家の系図書のような物を、お内方から山へひそかに送ったお覚えはないか。……何せい父の相国にも激怒しておらるる折だ。そこへ貴所の顔など見たら、油へ火がつくに極っておる。――まあ当分は、不沙汰にかくれ、それよりも鞍馬の童を一日もはやく剃髪させておしまいなさい。髪を下ろしてしまうにかぎる」
天狗風
一
六条坊門の白拍子翠蛾の家は、吉次の定宿も同じようになっていた。翠蛾の妹は潮音という。彼は潮音の檀那であった。
七日ほど前、都へ着いて、彼は今年も、そこへ落着いていた。――が、まだ潮音と一年ぶりの想いを果しただけで、世間へはどこへも顔出ししていない。
それをいつ知ったか、
「お文使いが見えまして」
と、一条朝成からの手紙が彼の手に届けられた。
「ははあ、おれに出向かれるのを惧れて、先手と来たな」
披いてみると、吉次の想像にはたがわず、まず先年の金の云い訳である。それから依頼の件は、六波羅殿へも運動しかけたが、ちと相国よりご不興を蒙るかどがあって、当分自分の扱いでは見込みもない。いずれ面晤の折にはつぶさに――とある。