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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

もういちいち腹立てている遑もない。吉次が黙々と、馬を井戸へ引いてゆくと、後から牛若がついて来て、

「どこかこの地方に、源氏に縁故のある御社はあるまいか。――そちは毎年通っている道中だから知っているだろう」

と、訊ねた。

二

だしぬけな質問なので、吉次はまたまごついた。

だが、大人の不用意へ、唐突に質問を出すのは子どもの持前というもので、何もふかい根拠があるのではない。吉次は、そう多寡をくくった顔で、

「さあ? 存じませんね。源氏に由縁のあるお社も、何処かしらに、尋ねればあるにはあるでしょうが」

と、空うそぶいた。

すると牛若は、

「そちは知らぬのか」

と、かえって今度は、教えるような口吻で云い出した。

「異母兄頼朝の母君は、名古屋のほとりとかいう、熱田の宮の大宮司、藤原季範が女にお在したとか聞いておる。――さすれば亡父義朝とも、源家の一族とも、ご縁は浅からぬお宮ではないか」

「誰に聞きましたか。そんな事まで」

「僧正ヶ谷の天狗どもに習うた」

「ヘエ。天狗は何でも教えたんですなあ」

むしろ呆れて投げやりに云うのを、牛若は、真面目にうなずいて、

「まだ見ぬ異母兄じゃが、そこの旗屋町とかには、異母兄頼朝が産湯の井もあるとのこと。