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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
三
――ただ今、問い糺してみましょう」
と、答えた。
その間にも、雑人たちは、口汚い悪罵をまわりから放っていた。
「馬盗人よ」
「主従、肚を合せて、馬の代を騙り取ったぞよ」
「流人根性!」
「配所の穀つぶし」
「馬を返やせ」
「その馬を渡せ」
何かそんな意味らしい。市の無頼漢や伯楽どもであった。訛りのひどい方言で罵ることなので、初めは何を云われているのか分らずにいた頼朝も、やや面色を改めた。
「盛綱、どうしたものだ」
「はっ」
「何か、間違い事ではないか」
「はい」
「なぜ、黙っておるか、そちは」
「彼等の勘ちがいもありますなれど、すべてが間違いでもございませんので」
「覚えがあるのか」
「少々あります。実は、市の伯楽に払う馬代を、忘れ果てておりましたため、ああ申すのでござりましょう」
「馬の代と?」
「はい」
「どの馬の代?」
「面目もございません。恐れ入りまする」
盛綱は、さし俯向いて、ただ謝るばかりだった。
きのう市で、りんどう黒を求めた男は、仲間の者にケシかけられて、怖々前へ進みながら、
「それだ。その馬だ」
と、頼朝の乗っているのを指さした。
「何、この馬の代じゃと」
頼朝は、鞍を下りた。