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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
奈古谷寺の境内をぬけて、兄弟は帰りを急いだ。宵空は、星雲にけむっている。野路まで出ると、闇のかぎり、虫の音だった。
「お案じなされて在ろう。思わず晩うなってしまった」
定綱は、用事の多い夕方の怠りを、気にかけている風だったが、盛綱は、
「兄者人、兄者人」
と、呼びかけて、
「どうせもう宵のご用はすんだ頃。夜道に日は暮れぬ。ゆっくり参りましょう」
と、落着きこんで云う。
云われてみればそうでもある。配所まで道はまだ一里の余もあった。定綱もあきらめて、
「――しかし、殿へのおみやげばなしはあるな。殿にも、一度、文覚を訪ねてみようかなどと仰っしゃっておられたから」
「兄者人は、また参るというような事を、帰りがけに云われて来たが、殿をご案内するつもりか」
「お会わせしてもよい上人とわしは思う。近頃での傑僧ではあるまいか」
「盛綱は、感服せぬ」
「そちは初めから感情であの上人を視ておるからだ」
「それもある」
盛綱は、率直に肯定して、
「けれど、その嫌いを除いても、やはり嫌いだ。あれがわれわれ同様に、太刀を佩いて、武人なら武人と、身を明らかにしているならよいが、僧侶のくせに、僧らしくもない」