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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
七
政子は、父の文を披いた。
牧場の妻の萱を使いにして、父の時政は、たびたび、ここへ便りをよこした。
表向きは、当然、義絶も同様――あれ以来、父と呼ばせないと、憤っている体にしてあるむすめではあるが――時政の愛には、変りなかった。
いや、むしろよけいに、親としての憐れみで、愛しさは強く深く、明け暮れに政子の身を気づかっているらしいのである。
で、便りのたびに、きっと書いてある事は、
――変りはないか。
そしてまた、
――短慮をすな。じっと、時の到るを待て。
といったような事だった。
もし政子が、絶望を抱いて、自害でもしはせぬか――それをのみを彼女の父は、いつの手紙にでも、ひたすら惧れて、時節という事を、書き忘れていなかった。
ところが、きょうの便りには、それがやや具体的に書いてあった。世間のうわさも、だいぶ薄らいできたという事。また、相手方(山木家)の感情も、ひと頃ほどではなく、従って、自分の考えているように、徐々と、事件の解決も見込みがついて来た――というような事などが、いつもながら、
(短慮すな。短慮すな)
と、言外に諭しながら細々認めてあった。