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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

二

宿人町から郭内へ通じる橋口に番兵が立ちだしたのも、その現れの一つと云えよう。長元年中、関東の騒乱に功のあった平忠常以来、累代平家の御家人であり、この地方の豪族として、現状のままである事が、最も安泰を希うところの家柄であった。

「はてな、怪しい旅商人だ。これで三度ここを通るが?」

「引ッ捕えてみろ」

橋口の守りの武士が、こう指さすと、その指を振向いた旅商人は、急に足を早めて、町の方へ曲ってしまった。

二

千葉介常胤の次男胤頼は、何処からか帰って来て、今、濠内へかかろうとすると、橋口をふさいで番の武士十四、五名が、何か騒いでいる。

「おい、何事だ」

胤頼は、馬上から声をかけた。

すると、武士たちに囲まれて、それへ引据えられていた旅商人は、

「おおっ」

と、彼を振向いて、跳び上がらないばかり欣んだ。

胤頼には、ちょっと思い出せなかったとみえ、

「何者だ」

と、近づいたら鞭で打ちすえそうな姿勢をした。

「それがしです。お忘れか」

「……それがし?」

と、じっと見直してから、初めて姿の変っている事に気づいたらしく、

「やあ、藤九郎盛長どのか」

と、眼をみはった。

かつて、その藤九郎盛長は、頼朝の召状を携えて、此館を訪れたことがある。