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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

「頼朝が安房より進軍してから、はや幾日になると思う。その間に、合戦あらば、二万十万の兵とて、間にあわぬ味方だ。――遅れ馳せは、武士の第一に忌むところである。左様な者は頼朝と事をするには足らぬ。目通りはならんっ、疾く帰れと云え!」

四

主従の隔てはべつとして、頼朝とは一心同体と信じている人々にも、頼朝のことばは、実に思いもうけぬ事だった。

千葉、土肥、北条など居あわせた諸将は誰もが皆、ハッと顔色を変えずにいられなかった。

第一に恐れた。

上総介広常の耳へも聞えたであろう事を。

第二には憂えた。

せっかく味方に来た二万の軍勢が、為に、離反して行くことを。

第三には、疑った。

頼朝の頭脳を。怒りを。

そして、茫然の裡に、やや呆れ気味さえ湛えて、頼朝の怒っている――ほんとに怒りきっている苦々しげな面を――生唾のんで見すえていた。

正当だ!

これでいいのだ!

大喝を発して、ぽっと熱した耳朶をしながら、頼朝は大きく唇をむすんだまま、自分の胸へ自分で云っているように黙りこくっていた。

幕の裾から倉皇と退がって行った取次の武士は、陣外に佇んで案内を待っている上総介へ、主君のことばを、そのまま、伝えるしかなかった。