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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
三
三
ふと、瞑目から醒めると、彼は不意に立ちあがって、
「高綱はおらぬか」
と、妻戸口を出て、辺りへ呼んだ。
ここの仮の兵舎は、かつて平家のなにがしが住んでいた館とみえ、邸内はかなりな兵を入れるに足り、厩の棟も豊かにとってあった。
「お召ですか」
高綱が駈けてくる。暗い地上にうずくまって彼の姿を見あげながら云う。
「景季もおるか」
「おりまする」
「四、五名供をして来い」
「どちらへ」
「蒲殿の陣所まで」
義経は自身、厩の前まで歩いて行って、馬を出させ、もう二条の方へ急いでいた。景季、高綱たち五、六名が、後から徒歩で追ってゆく。
するとまた一騎、追いかけて来た。畠山重忠であった。
「取急いで、お耳にまで」
と、重忠が駒を降りようとすると、
「下馬に及ばん。何か」
義経から駒を寄せた。
「うわさの実否を確かめんものと、洛外遠くまで出向いて参りましたが、平軍入洛の事は、虚報にござりまする。明日とも知れませぬが、こよいはまだ……」
「そうか」
義経は、少し眉をひらいて、
「いずれにせよ、わしはこれから蒲殿へお目にかかりに参る。そちは陣所へ帰ってよい」
別れて、また急いだ。
蒲冠者の本陣を義経が訪れると、範頼は、