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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
三
そんなことも、独り言のようにいった。
証信房は、側から、
「先ごろ、京都へのぼられた真仏御房が、勅額をいただいて参られるころには、伽藍の普請も、悉皆、成就いたしましょう」
「うム……」うなずいて、
「そう、そう」親鸞は、城主の国時をかえりみ、急に思い出したようにいった。
「――この親鸞も、近々に、いちど信州路まで出向かねばならんのう。国時どの、しばらく、宮村の庵を、留守にいたしますぞ」
「ホ……それはまた俄かな、急に、ご巡錫でも思い立たれて」
「いやなに、この伽藍に安置して、末世まで、衆生を導かせたもう本尊仏を請い受けに」
「あ、では善光寺へ」
「お迎えに行って参る」
「お供の方々は」
「本尊仏のお迎え、親鸞ひとりでもなるまい。これにおる証信房、鹿島の順信房、そのほか二、三名は召し連れましょう」
話の半ばだった。
大工棟梁の広瀬大膳と、その部下の者が、血まみれになった一人の男を抱え、ばらばらと駈けてきて、
「権之助殿、これにか」と、いった。
奉行の藤木権之助が、その様子を見て、なにか仕事の上の急用かと、
「オオ、何事」
「また、例の――」と、大膳や部下たちは、なにか喋舌りかけたが、そこの丸太足場の蔭に、城主や上人のすがたがちらと見えたので、