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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

三

ただ色に耽り、酒にふける

いたずらに人を謗し

また世を毒す

豈、閻羅獄卒の責めを免れんや

ここにたまたま、文覚

俗を払い法衣を飾るといえども

悪行なお心にはびこり

善苗、耳に逆う

いたましいかな

再び三途の火坑に回り

四生の苦輪を廻らんことを

故に、われ

無常の観門に涙し

上下の真俗をすすめて

菩提の悲願に結縁のため

一の霊場を建てんとなり

それ、高雄は山高うして

鷲峯山の梢に表し……

声かぎり読んでゆくうち、汗はだくだくと彼の赤黒い顔に筋を描いているのだった。群衆は一人去り、二人去って、誰も、懸命な彼の声に、衝たれている者はなかった。

(なんじゃ、また勧進か)大衆は、銭乞いに、懲りている。惜しげなく、彼を残して、散ってしまう。ただ一人、立ち残って、

「おい、盛遠殿」と呼びかけた旅商人がある。

三

「盛遠殿」旅商人はまた、辻の柳樹の蔭から声をかけて、

「もう誰も、お身のまわりに聞いている者はないぞ。――盛遠殿」文覚は、はっと、勧進の文から顔を離して、いつのまにか、犬もいない辺りの空地に、舌うちをした。そして、腹だたしげに、

「やんぬるかな!」つぶやいて、勧進の文をぐるぐると巻き、ふところに突っ込んで、歩みかけた。