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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

六

従者がなぜですかと、問うと、白馬の貴人は、こういった。

(おまえ達には、わからぬか。あの童子の眸は、褐色をおびて、陽に向うと、さながら瑪瑙のように光る。なんで、凡人の子であろうぞ)と、いったという。

果たせるかな、勢至丸は、やがて後の法然上人となった。

その時の白馬の貴人は、九条関白忠通公で、縁といおうか、不思議といおうか、慈円僧正の父君であった。

六

中務省へ、使に走った者は、省の役人から、むずかしい法規と諮問をうけて、手間どっているのであろうか、なかなか、戻ってこなかった。

青蓮院のひろい内殿は、どこかの筧の水の音が、寒い夕風を生み、塗籠からは、黄昏れの色が、湧いてくる。

供の侍従介は、さっきから、廊の端に、坐ったまま、苑面にちりしく白い桜花をじっと見入っていた。

「おそいのう」慈円僧正は、気の毒そうにこうつぶやいた。

ゆらゆらと、短檠の灯が、運ばれてくる。

「官の小役人には、法にしばられて、法の精神を知らぬものがまま多い……。こう遅うては、みずから参って、説かねばならぬかも知れぬ」

「なんの、待ちどおしいことがございましょうぞ。お案じなく」と、範綱はいった。