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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

後白河法皇の大戒をうけられたのも、たしか、お十歳に満たぬうちであった。おのおののうちで、すでに白髯をたれ、老眼にもなりながら、まだその心域にいたれぬ方があらば、まず、自身を恥じるがよい――また、若輩な学僧たちは、そんな他人のことに、騒ぎたてて、無益の時間をつぶす間に、なぜ、自身の修行を励まれぬか」

「…………」

「ふたたび申すが、わしは、ふかく範宴少納言の天質を愛しておる、同時におそれておる。師として、指導のよろしきを得ねば、梵天の悪魔に化すかも知れず、その珠たる質のみがきによって、この荒び果てた法界の暗流と濁濤をすくう名玉となるかも知れない。その任を重く思うのだ。ひとたび、山を追われて、今の修羅の世に出て、あの雄叫びを聞いたなら、おそらく、彼は、源義朝の嫡男たちと共に、業火の下に、鉄弓もしごく男となろう」

「…………」黙々と、人々は、慈円の顔をみているばかりだった。慈円の眉には、弟子として、また一個の人間範宴のゆくすえや、範宴の性格や才や、あらゆる些細なものまでを朝夕の眼にとめて、ふかく、その将来を案じている容子が歴々と読めた。

「いや、ようわかりました」