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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

八

会う日を、楽しんでいたのでございます。決して、萱乃がいうような浮いた話ではありません」吶々ということばには真実があって、むしろ、妹思いな兄と、兄思いな妹とが、髣髴として、眼を閉じて聞いている人々の瞼に迫ってくるほどなのである。

「すみませんッ……」突然、泣き伏したのは萱乃であった。身悶えをして咽びつづけた。

八

悔いと慚愧に、うちたたかれて萱乃は、

「――何もかも、私の嫉妬からでした。……すみません、国助さんにも、お父さんにも」くりかえすばかりだった。

嫉妬は、女を炎にするが、その迷いから出ると、女は、不愍なほど、真実な姿にかえって、浄化される。性善坊は、箭四郎に、

「おぬしは、娘御のこれほど慕っている国助が、気に喰わぬのか」とたずねた。

「いや、気に喰わんというわけじゃないが、世間でとかくよういわぬから、娘の行く末を託するに足らぬ男と思うていたまでじゃ」

「その誤解も、今は、解けたであろうが」

「うむ……」

「解けたついでに、心まで打ち溶けてみる気はないか。――親がゆるして、添わせてやるのじゃ」

「わしにも、落度があった。国助の心ばえも、今夜はよう分ったゆえ、男女の望みにまかせましょう。