轻松读懂日语经典作品
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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
九十九夜
一
九十九夜
一
魔の荒して行った伽藍のひろい闇を、その後の惨たる泥足の跡を、冷たい風がふきぬけていた。
尋有はいつまでもからだの顫えがとまらなかった。脚ぶしをがくがくさせて、廻廊の扉口から大床のうちを覗いた。
一点の灯しもない。いるのかいないのか範宴のすがたも見えない暗さである。尋有は這うように進んで行った。――と、賊が捨てて行った経巻が白蛇のように解けて風にうごいている。その側に、坐っている者の影が見えた。
「兄君ッ……」つき上げて出た声だった。範宴のほのかに白い面がじっと自分のほうへ向いたことがわかると、尋有は跳びついて兄の膝にしがみついてしまった。
「おっ! ……」愕とした兄の手が尋有の背をつよくかかえた。かかえる手もかかえられる手も氷のようだった。ただ、範宴の膝をとおす弟の涙ばかりが熱湯のようにあつい。そして、範宴は弟が何のために山へ来たかを、また尋有は兄が自分の姿をどう心の裡で見ているかを、何もいわないうちに分ってしまったような気がするのであった。兄を責めるとか諫めるとかいうようなことはみじんも忘れ果てて、ただ、肉親の情涙の中に泣き濡れていることだけで満足を感じてしまった。