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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

「また、来たぞ」一言で相手を刺したつもりであろう、こういって、陰性な笑みを唇にゆがめて見せる。

綽空はわずかに顎をひいて、友でも迎えるようにいった。

「上がらぬか」四郎の左右に、これは四郎よりさらに獰猛な人相をそろえて、山刀の柄をにぎったり、拳をかためたりして示威していた手下たちは、案に相違した対手の態度にやや張りあいを失って、頭領の顔と綽空のすがたを見くらべた。

「話がついてから上がろうじゃないか。もっとも、話がつかなけれや、俺たちは、当分、ここへご滞在となるかも知れねえが」四郎の嫌がらせは例によってモチのように粘る。

「わしに、話とは」と、綽空。

「とぼけるなっ!」と、ここで四郎は特有な声に凄味と張りを急に上げて――

「この前、飯室谷の大乗院で会った時に、いいおいた言葉を忘れはしまいが」

「うむ」

「ここのとこ、職業が不じるしで、久しくうめえ酒ものめず、乾あがりかけている始末。そこでおもいだしたのがおぬしだ、金が欲しい、金をもらいに来た」

「いつかも、答えおいた通り、僧門の身に、金はもたぬ、この庵にあるものなれば、何なりと持ってゆくがよい」

「いや、ないといわさん、おぬし、手紙を書け」