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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

振向いてみると、今、自分が立っていた堤の上に、一つの人影が見え、手をあげて招いているのだった。

「ア。……四郎か?」と思ったが、それにしては姿がちがっている。どうやら自分を呼んでいるその男は、黒い法衣を着た僧らしいのである。

十二

――誰だろう? 弁円がいぶかりながら元の道へ足をもどして行くと、遠くから呼びとめた僧体の男も、彼方から歩み出して、お互いに距離をちぢめた。

そして、双方の顔がわかる程度まで近づくと、

「あっ?」弁円は大げさに叫んだ。

いや、驚くのが当りまえで、彼があっといったのも、あながち誇張ではない。

「――四郎じゃないかっ」駈け出して、その僧体の男の前に立ち、もいちど、呆れ返ったように眼をみはった。

天城四郎はきれいに頭を剃っていた。見るからに剽悍なあの野武士ていの姿はどこにもない。この寒空にうすい墨の法衣一枚なのだ。そして、惨忍にかがやいていた眼も、酷悪に尖っていた鼻ばしらや顎骨も、どことなく和んでしまって、つい先ごろここで、

(よしっ、待っていろ)と、悪業へ勇み立って行ったあの大盗らしい面影もないのである。弁円はあまりのことに、

「うむむ……」