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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

四

「オオ、以前は、泥棒を商売にしていたが、自分の頭領が発心して、僧門に入る時、てめえも真人間になれと懇々いわれたので、それ以来、泥足を洗って、てめえのような凡くらに、きょうまで、おとなしく仕えていたが、もう止めた。真人間になるなんて、こりごりした。いったいこの世の中のどこに真人間なんて者がいるかってんだ。てめえのような悪代官を見ると、おれたちの昔の友だちのほうがはるかに正直で涙がある」

「よくもいうたな、おのれ、引きずり降ろして、鋸引きの刑にしてくれる」

「わらわすな」と、蜘蛛太は、依然としてそこに落着きこんで――

「おれが逃げようと思えば、こんな田舎の陣屋の牢ぐらい、幾らでも破ってみせる」

「よしっ、その舌の根を」憤然と、年景は、家の内へ走りこんだと思うと、弓と矢を持って、ひらりと、縁先から跳び降りた。酒気のある顔に、血をそそいで、弓に矢をつがえ、キリリと引きしぼって、こずえの空を狙うと、

「やい待てっ。――おれを射る気か」

「…………」ぴゅっと、返辞のかわりに矢は空へ翔けた。――しかしあわてたので蜘蛛太の体を外れていた。ただ二、三枚の若葉がばらばらと散ってきただけである。