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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

彼は臥床へ横になってからも、しばらく寝がえりばかり打っていた。

ふいと、身を起して、またどこかへ立って行く様子だった。定相は、

(おやっ?)と怪しんで首をもたげかけたが、厨のほうで石念が水をのんでいる様子なので、また眠りを装っていた。

そのうちに、定相は彼に対する注意も気懶くなって、ぐっすり眠りに落ちてしまった。

ほかの教順や、念名などは、その前から高鼾を掻いているのだった。……だが石念だけはいつまでも寝つかれないで、悶々と自分を持てあましているかに見えた。

側に熟睡している人々の寝息が、羨ましくもあるしまた、

(動物のような奴だ)と、その単純さを腹立たしげに軽蔑しても見た。けれど結局、自分の眠られないのは、何としても苦しかったし、それに決して、正しい悶えでないことも彼自身知っていた。

(――どうしてだろう、おれはこのままで自分を抑えつけていれば発狂するかもしれない)

かっかっと耳たぶは血で熱くなるばかりだった。――ふいに枕から顔を上げてどこかを見まわす彼のひとみは底光りがしていた。何か夢遊病者のように彼のたましいが彼をあやつっていた。

(……そうだ、もうおれは、どうなってもいい、地獄へも落ちろ、この今の炎に焦かれて苦しむよりは)何か怖ろしいことに意を決したらしいのである。