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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
――七百年の永い間、民も変らず領主も替えられず、土に結ばれた君民じゃもの。それには又、上野介様の御仁政もあずかって力があった。一つ二つを云えば、矢作平の水害を治せられたり、莫大な私財を投じて、鎧ヶ淵を埋め立てて良田と化し、黄金堤を築いて、渥美八千石の百姓を、凶作の憂いから救い、塩田の業をお奨めあそばすなど、どれほど、民の生活に、心を労せられたお方か知れぬのじゃ。その他、上野介様の御代になってからは、寺の荒れたるは繕い、他領のような苛税は課せず、貧しきには施し、梵鐘を鋳て久しく絶えていた時刻の鐘も村に鳴るようになった程じゃ。その御恩徳が身にこたえている百姓が、江戸での大変を聞いたので、夜も明けぬうちから、氏神へ祈願に詣るもあり、華蔵院にある吉良家の御先祖の木像へ、上野介様のお手当がとどくようにと祈りに行くもあり、領土をあげての悲しみじゃ、恨みじゃ……』
縷々として、老人の言葉は尽きないのであった。
更に、声を励まして、
『その憂いと怒りに、さわいでいる幡豆郷から、目と鼻の先にあたるこの街道を、浅野の早駕が通ると聞いて、何で、村民どもが黙って見ていようぞ。