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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
会葬者は、吃驚した。
娘はもう三平の早駕に飛びついて、人目もなく泣き仆れているのである。気が狂ったのではないかとさえ人々は疑った。
『妹かっ』
三平の声も調子外れに響いた。
『兄さん! ……兄さん! ……。下りてください』
『誰が死んだのだ』
『お母様が……』
『げッ、母上が』
よよと、妹は泣き顫えた。
弓のように腰は曲がっているが、まだ頑健さを、肩の骨ぐみに失わない老武士が、紙緒の草履を静かに運んで来て、
『三平か』
と、覗き下ろした。
『おお、父上にござりますか』
『何うしてここへ来た』
『御公用で、ゆくりなく』
『あらそわれないものだ、ゆうべが、おまえの母の通夜だった。今年、五十二よ。まだ死ぬ年じゃないが、おまえに似て、細っこいでな、病死じゃ』
『御孝養も申し上げず』
『何、よろこんで死んだわさ。貴様も、内匠頭様の中小姓とまでなって、追々と、お覚えもよいと聞いてな……』
『は、はい』
『だが、早駕とは心がかりな。殊に、貴様の血相も、ただ事とは思えん。何か、あったか』
『まだ、お耳には』
この辺にも、当然、噂は来ている筈だ。思うに、近親の者たちが、連れ妻を失ったこの老父に、更に息子の仕えている藩の大変を知らせては、余りにも傷ましいと考えて、秘していたのかもわからない。