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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

た。

早打人足の口から、江戸の大変は、城下の町人たちの間へも、またたく間に伝わっていた。

侍たちが、すぐ戦を聯想するように、町人たちは、本能的に、

『――藩地がお召上げになったら、わしらの持っている藩札は何うなるのじゃ』

という当然な不安に、騒ぎだした。

『領主がお取り潰しになったら、これは、反古も同様になるのじゃないか』

目いろをかえた小商人や百姓や大町人は、町年寄の家へ殺到した。だが、埓があかないので、辻々にむらがり一団一団とかたまっては、札座奉行の役所へ押しかけた。

『金と引き替えてくだされい』

『藩札は、一体、どうして下さるのじゃ』

『替えてくれい。使える金と、換えてくれい』

奉行も横目役も、もちろん城内なので、小者が、役宅の門をかたく閉めきって、為すがままに黙っていると、取付に殺到した町人たちは、刻々に人数を加えて、

『金と替えろっ』

遂には、石を抛ったり、柵を壊したりして、暴動にもなりかねない勢を呈してきた。

浪々々の中の巌

家老上席から、城代以下、軽輩の士にいたるまで、これだけの人数が、城内の一室に集まるようなことは、よほど、戦時か何かでなければ見られない。