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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
ぬる茶を一口ふくんで、
『大野氏は』
と、訊く。
『諸士の中に居られます』
内蔵助は、自分で立って行った。そして、九郎兵衛を誘って、別室に入ったが、暫く出て来ない。人々は、両家老が何か重大な相談をしているにちがいないと、そこの杉戸を見まもっていた。
『外村殿、御家老が、呼んで居られる』
誰か、注意した。
組頭の外村源左衛門は、広間の隅から、あわてて杉戸へ入った。程なく出てくると、何か、火急な用を吩咐かったらしく、表方へ迅足に退出した。
広島の浅野芸州侯へすがって、金子四千五百両の無心を願いに行かせたのであった。
その一方に、領下の年貢未進や御貸金を取りたてる――と云う内蔵助が半日の間に立てた解決策を、数字によって、細かに示されたので、九郎兵衛も、
『それなら、六分換で、藩札の引替を始めても苦しゅうはござるまい』
と、初めて同意した。
すると、戌の下刻(九時過)墨のように広間で沈んでいた諸士の顔に、ぼっと、灯の色がさわいで、
『二番早打が着いた!』
と、表方の知らせにざわめきだした。
大石、大野の両家老が、早足にその人々の前を通って行った。
殿の即日切腹という第一報にも、藩士たちは、まだまだ一縷の望みをつないでいるのであった。