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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
と、ここでは話している。
藩庫の経済力に安心を見きわめた城下町の町人心理は、もうその日あたり、べつな方へ、敏活にはたらいていた。武器の密売が活溌になり出したのだ。どこへ需要されてゆくのか、古道具屋の塵に埋ったまま永年一朱か一歩でも買手のなかった鈍刀や錆槍までが、またたく間に影を潜めてしまった。また今朝の便船では、首に現金をつけた上方筋の道具買が、何十人も浜から上陸って、赤穂の城下で捨て売にされるだろうという、思惑から、入り込んだということだった。書画、古着、手道具、骨董、武具、紙屑に至るまで、それぞれを専門とする上方訛の商人の声が、屋敷町の裏をうるさく訪れて廻っている。何処で払った物か、天草陣の時に使われたという大砲を買った一組が、それを車にのせて通るのを往来の者は、もう不思議とも見ていない。
『馬を買おう、いい馬なら何両でも出すが』
ふだんは田馬も買えない博労までが、俄に大口をきいて歩くのも何か自信がなければやれない事だ。貧しい藩士の屋敷へ行って、金には当然渇いている妻女をつかまえて、首財布から不相応な金をだして見せびらかしたりする。鞍附でも買えば町の中を得意げに轡を鳴らして曳いて通るのだ。