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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
と睨めすえた。
『へ、へい、上方の商人でおますが、なにも、怪態なもんや、おまへんで』
『うそを云え』
『なんで嘘云うたりすることがおますかいな。道具屋の彦兵衛云うたら、順慶堀でも老舗の方やで聞いてみなはれ。この通り鑑札持って、諸国を道具買うて歩いてまんのや』
喚いて、襟がみの手へ手をやってもがいていると、長屋の側の十坪ほどの畑に、鍬を持って土をかえしていた老僕の八助が、
『あっ?』
振向いたと思うと、鍬を持って、駈けて来た。
男は、跳び上ったが、鍬が片足をつよく打った。八助は、もいちど振り被りながら、
『こやツ隠密じゃっ』
と罵った。
『隠密か』
浪人が、襟がみを離すと、男は、
『あ痛っ』
と、大地へのめった。
『それみろ、四国訛じゃ』
槍の石突きで腰ぼねをつかれて、男は、三つほど転がった。苺のように真っ赤に摺りむけた鼻をして跳び上ると、抛られた猫みたいに、門外へ逃げてしまった。
『老爺、あんなのが、ちょいちょい来るのか』
『どうして、油断も隙も出来たものじゃございませぬて。おう、それはそうと、弥太之丞様、ようお越しなされましたな』
『御家老は、在宅か』
『おいでなされます。