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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
人々は、貨幣にたいする隔世の感を、むかしという語で表しているが、その“むかし”とは、わずかここ四、五年の間の変化をさしているのである。貨幣の下落は、それほど庶民を眩いさせていた。いう迄もなく、物価はハネ上り、ことしも、上り脚の一方をたどっている。
大天災があったのでもない。戦乱による狂騰でもない。この経済破壊の起因は、わずか二人の人間のせいだと江戸の市民は暗黙に知っていた。口に云わないだけで、知っては居た。うかと、しゃべればすぐ首がなくなることはそれ以上明らかだからだ。しかし、もすこし深くものを考える有識者は、あながち“二人”とは思わなかった。要するに、その二人も入れた一群の司権者と、当然、こんな事態のできるように出来ている組織と、その中のものが、そっくり腐り初めたのだと考えている。
具体的にいうと、いま五代将軍の綱吉と、その生母の桂昌院が、何しろ非常な濫費家だった。いや、金の作用というものを知らないのだ。いやいやもッと知らないのは、物資、国材、人間の労力の価値など、全然わからない位置にあるのである。
綱吉の“柳沢お成り”といって、町でも評判な柳沢吉保のやしきへ出かけた回数も、五十数回という頻繁さだった。