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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

わしは与せんよ。左様な愚挙に与するくらいなら、この席は立ってもよい。然し、城代としてはここは立てぬわしだ。同時に、断じて無謀な籠城などは相成らぬ』

『うぬっ』

末席で不意に立った者がある。憤怒の眉が刀のつかを掴んで、跳びかかって来そうな顔を示したが、

『これっ』

と周囲の者が、抑えつけてしまった。

九郎兵衛は老人特有なきかない顔で、その方を凝視めた。両派の者が、はっきりした沈黙の陣を示して、白けわたった。

『然し――』

内蔵助がその時、面を九郎兵衛に向けていた。九郎兵衛は、きっと眸にうけて、

『わしの言い条は、ちがうであろうか』

『理に長けておざるがの。義においてはどうあろう』

『なぜ』

『赤穂藩は、小なりと雖も、常州笠間以来、士を養うことここに三世、御恩顧をうくる者三百余士、この際、おめおめ、城を明け渡して、どう武門の名分の実があがりましょうか』

『では、其許までが、籠城をよいとお考えか』

『よいとは思わぬ。ぜひがないと思う――。然し、拙者の実の存念は、殉死にある、最上の一策は、一同、大手御門内に座をならべて、亡君のお後を慕いまいらすことじゃ』

『えっ、殉死』

九郎兵衛は内蔵助の面を見なおした。