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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

そんな事を呟きつつも、藩士たちの顔はふしぎと昨日から明るかった。

籠城から――開城となったからだ。

殉死か、討死か、何方を向いても死の策だったものが、開城と一決して、幾日でもここに生きのびられる欣びだろうかといえば、決してそうではない。それ程、生命を主とする考えならば、いつでもあの評議の席を立てば立てたのだ。この赤穂から外へ出るのを、阻める関所はないのである。

また、最後の日に、盟約が結ばれて、内蔵助の口から、はじめて、

『開城』

と云う底意が打ち明けられ、

『――後図のことは、一先ず、此方の存意におまかせ下さるまいか』

となって、それを誓文の一行に書き加えて承諾してある以上は、今捨てない生命も、決して永い間というわけでないことは分っている。

いずれは近いうちに死ぬのだ!

これ程、はっきりと先の見えていることはない。それだのに、遽に、各※(二の字点、1-2-22)の面につつみきれない明るさがさして来たのは、取りも直さず、大きな心の変化でなければならない。

絶望が希望へ一転したのだ。

惨憺たる敗地から勝利者への位置へ立ち直ろうとして来たのだ。

ただでは死なぬという生命力の現われて来たものが、昨日から、藩士たちの生々としたその眉なのである。