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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

史家のいう「お犬様時代」の現出だ。

食えない人間だらけの地上に、広大な敷地建物を擁する中野お犬小屋だの、大久保お犬屋敷などが出来、人間どもの羨ましがる白米や魚類が費用おかまいなく供せられ、お犬奉行、お犬目付、お犬中間、お犬医師など、大名にかしずくほど人間がそれに奉仕した。

それもそれで、禄をもらって食っている人間はまだ、いい。然し、一般庶民は、町をわがもの顔に吠えまわるお犬様の扱いに当惑した。石を投げても、打ち首になる。キャンと啼かせても自身番へしょッ曳かれた。お駕籠に乗って通る犬を見れば道を避けてつつしまねばならぬ。噛みつかれた野良犬を、つい蹴とばしただけで、当人は切腹、家は断絶、一族は離散のうき目をみた旗本もある。犬のおもちゃでも、子どもの手にはうっかり持たせられず、神棚へあげて、朝夕、礼拝しているといえば、神妙の至りと聞えて、人間の最善行として、表彰されたりする。――要するに、時の将軍家が、戌年生れだったのが、時の人民全部の、不幸なる生涯を約束してしまったわけだ。貨幣下落以上、人間の価だんは大下落を来した。

(人間相場は、お犬様以下さ。どうせ、……畜生以下の人間でさ。