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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

(謙信公以来の御名家も、これまでか)

と、さえ思った程である。

倖にも、上野介の立場は、受け身にあったし、島津だの酒井だのという大藩とも親戚の関係にあるので、裏面からの策も功を奏して、此方側は「おかまいなし」と云う決着にはなったが、それが少しも、兵部の安心にはならなかった。寧ろ、上杉家にとっては、事件を将来に大きく残してしまったと考えている。

『困った御老人ではある……』

今も、兵部は、沈湎とした面を、夕方の打水に濡れた樹々に向けて、もう仄暗くなりかけている茶室の端に坐って思わず呟いた。

『……とんでもない事だ。この白金のお下屋敷へ、あの御老人を引き取って、匿まうなどとは、戸を開けてわれから焔を呼び入れるにも等しい』

今し方、江戸家老の沢根伊兵衛が、桜田門外の上屋敷から来て、持ちかけた相談なのである。

(上野介殿の身辺が実に心もとない。いつ襲うやも知れないものが感じられる。万一の備えに、この白金のお下屋敷へお身を移して、穴蔵の間道でも作って、安全を計ってはどうだろうか。――御老人自身もそれをお望みのように見えるが)

と云う話なのだ。

兵部は、それを、

『相成るまい』