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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
だが、やがて七刻近く。
読経と参拝をすまして、粛然と、本堂を出て来た二十余名の浪士の一団があって、初めて、浅野家の百ヵ日らしいものが感じられた。
堀部弥兵衛、安兵衛父子の顔が見える。村松三太夫父子もいる。倉橋伝助、奥田孫太夫、磯貝十郎左、赤埴源蔵、高田郡兵衛、田中貞四郎と――順々にあらわれて来る顔は、浪々の後も、決して剛毅を衰えさせてはいない。いや、むしろ以前にも勝る軒昂たる意気が誰のすがたにもあった。
『又と、何日これだけの顔が会えるか、浪人すれば萍じゃ、このまま別れるのもさびしいて』
と、片岡源五右衛門がいうと、
『どこぞへ、立ち寄ろうか』
と、村松喜兵衛が堀部弥兵衛へ、
『老人――』
と呼ぶ。
弥兵衛は振り向いて、
『老人が老人を呼ぶに、老人とはちとおかしい』
『ははは。老人嫌いが、この頃は、わけて気にしなさるの』
『若返ろうと思うているのじゃ』
『大きに』
さも同感らしく頷いて、
『所で、その若返りに、どこぞへ立ち寄って、御法事を営もうという議があるが』
『よかろう。どこで』
『俗な茶屋では困る』
『海辺を歩いたら、かっこうな料亭があろう。若い者のおとなしいのは可憐しい。