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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『もう、お済みか』

無人は一同へ云って、

『惜しいこと致した。もう一足早ければ、末席に加えてもらうことが出来たのに』

『いや、遅いことはない。御法事はこれからじゃ。お待ちしよう、御墓拝をすまして参られるがよい』

『それでは相済まぬ。どうぞ、お先へ』

『いや、休息する家もこれから見つけることじゃ。誰か、探して来る間、どうせ待たねば相成らん』

『左様かの。では行って参ろうが……。安兵衛殿』

『はい』

『すまんが、御墓所まで、案内してくださらんか』

『承知しました。立派なお石碑が出来ております。御案内いたそう』

無人を導いて、堀部安兵衛はふたたび墓地へ引っ返した。

新しい石の前に坐って、無人は、長々と額ずいている。蝉の音が無数の墓に沁み入るように啼きぬいていて、樹蔭にはやや涼風がうごいて来た。

『安兵衛殿』

やがて顔をあげると、無人は、肩を四角く張って、

『そこへ坐ってもらおう』

と、自分の前の大地を指した。

『なんでござるか』

『ちと話したい儀がある。――君前で畏れ多いが』

『承りましょう』

『例の事だ』

無人はきびしい眼光を疑と安兵衛の顔に射向けた。満々たる不平が、すこし茶いろな眸の底から燃えている。