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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『世間のわらい声を聞くのがわしは辛い。わしは浅野の臣ではないが、武士として傍観は為し難い。なぜ右顧左眄をするか。きょうの御法事に、上野介の首級を供えぬのか。――時期の何のと、小賢しいことをいうているような事で、成就がなろうか。上野介を討つのに、なぜ、日を選ばねばならんのか、わしには分らん。一日のびれば、一日だけの要害が先に加わるのじゃ』
『仰せどおりの意見を、奥田、高田、拙者の連署を以て、内蔵助殿のほうへ幾度となく申しやってはござりますが、大学様のお取立を懇願する方に、今の内蔵助殿は全力のように見うけられる』
『ばかな事をする男よ。たとえ、原封五万六千石、そのまま、御舎弟へ下し置かれるとあっても、上野介をあの儘において、大学様が安閑と家名をついで居れようか』
『てまえも、左様に心得まする。いつも、内蔵助殿のぬるい書面を見ては、あの奥田老人でさえ、歯がゆがっておる位でござる。さればと云って、小人数にて、吉良へ斬り入りました所で、万が一、為損じでも致しては、それこそ、末代までの不覚、赤穂の血迷い者がと、よい物笑いにもされましょう。――それやこれやに、つい日を過して参りましたが、国元組の意向はともあれ、どうあろうと、年内には、初志を貫かずには措きませぬ。