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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
土蔵脇の小部屋にも、後の縁端の左右の部屋にも、ここには、常に七、八名の侍が刀の鯉口に心をとめて坐っているのだった。左兵衛佐が橋廊下をこえて来ても、すぐその跫音に、刀を握った男共が、幾つも首を出した。
『…………』
気味のわるい目礼に送られて、左兵衛佐は、老父母の起臥している二重桝の中みたいな暗い一室へ入った。北向きの狭い軒から青葉の影が陰気にさしている十二畳の一部屋である。
そこに、憂鬱な顔を突き合せて、黙然と、意気地もなく坐っている老父の薄べったい肩と、老母の曲った背を見出すと、左兵衛佐は、胸が塞がった。どうして、こんな意気地のない父が、殿中で他人からあんな激怒を買うような行為をしたり、世間から我意傲慢な人間に視られているのか、わからなかった。毎年、領地の三河から初穂を持って出てくる郷里の領民からは、氏神のように、尊敬されている父でもある。その人々の仰ぐ父と、江戸市民たちがそしる父と、べつな人間でもないのに――と、子である彼には、世界が懐疑されてならなかった。
この家庭
『左兵衛佐か』
人の気勢に、上野介はすぐ気づいた。老妻の富子に向けていた深刻な陰のある顔を、そのまま、