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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
と、上野介が云う。
家臣の一名が側の者に囁いて、やがて左兵衛佐にそっと耳打ちした。
『不審な浪人が、十名ほど、この船に添って、河岸を歩いて居りまする。……御油断をなさいますな』
『ど、どこに?』
家臣は無言で左側の岸を顔で指した。――成程歩いている。六人が先に、五人は後になって行くが、その二組が一つ連れであることは、暫く挙動を見ているとわかった。左兵衛佐は急に落着かない眼をして、自分たちの伝馬船に尾いて漕いで来る二艘の艀をふり向いてばかりいた。万一の場合にと、その二つの艀には、家臣のうちのしっかりした者が四名ずつ乗って従いて来る。すべてを併せて、約二十名ほどの人数なのだ。それに対して、陸の怪しげな人影は、はっきり、十一名の数が読まれるのである。
『……大丈夫であろうか』
家臣の者へ囁くと、
『お案じなさいますな。陸と河、滅多には、寄れませぬ』
『でも……』
左兵衛佐の鬢の毛が、川風にそそけ立っていた。赤穂の浪人のうちには、かなり豪の者がいると聞いている。槍術の達人としては、高田郡兵衛の名はひびいているし、剣道にすぐれた者としては、堀部安兵衛などもいる。二十名と十一名とでも、所詮、対等には戦えまい。