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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『移る時には、昼か、夜かだ?』

『世上を憚って、一歩も他出しないという上野介の事、必ず夜を選ぶだろうと思う』

『然し、意表に出ぬとは限らぬ。前原一人で、いざと云う時、間にあうか』

『ここ四、五日は、必ず各一定の居所にいる事。その他、急場の要意お含みあるように』

いつか誰の声も低声になっていた。内匠頭の百ヵ日を過ぎても、一向煮え切らない内蔵助の態度や、又、上野介が来春は米沢へ移るだろうなどという途上の説に、こう急激に決行へ焦心って来たこの人々は、もう一日も猶予はならない気がして、吉良家の屋敷替えという絶好な機会を掴んで、宿志を遂げようとするものらしく、密々と、それから半刻も、何か諜し合っていた。

――と。席を立って、階下の厠へ行った田中貞四郎が、いつ迄経っても見えないので、お互に、警戒の念を抱き合っている人々の眼が、すぐ、その空席へ不審を抱いて、

『田中は、何うしたろう』

『厠にしては、ちと長いが……』

赤埴源蔵が起って、

『見て参ろうか』

と、階下へ降りて行った。

陸の付人

バタバタと蒲焼を焼く煙の中で団扇をたたく音が板場でする。鰻を裂いたり、蒸したり、忙しげに男達がそこで働いているのだった。