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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
その手から、情報が飛脚されると、内蔵助からは間もなく、
(十月中旬、自分も一度、江戸表へ出向く)
と云う返札が一同へ宛てて来た。
『大石殿が来る!』
と云う声は、さすがに、議論や焦躁に暮れていた在府組の意気を、粛と、引き緊めた感じがある。
『ともかく、大夫のお下知を待って』
と、何もかも、それに期待していた。
程なく、十月二十日には、山科を発ったという手紙。つづいて十一月二日頃には、江戸へ着く予定という道中からの先触れ。
また、滞在中の宿として、以前、浅野家の日傭頭をしていた芝松本町の前川久太夫の宅を借りうけるつもりで、一札出しておいたが、なお、念のために、在府の者から、訪れておいてもらいたいという手紙。
冬が訪れかけて、時々、霜を見る朝もあったが、忘れられた庭の隅や、往来の籬に、まだ秋の残り香のように、菊の遅咲きが匂っていた。
二つの道
明日は誰か三、四名、品川口まで、大石殿を迎えに出ようと相談して別れた夜である。
堀部安兵衛が家に帰ってみると、妻のお幸が、夕方から客が来て奥で待っていると云う。
『誰だ』
『高田様でございます』
『郡兵衛が?』
すぐ会おうという気になれなかった。