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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『いや、吉良殿の手の者を、一名でも抜いてはならぬ。たとえ、内蔵助が京都へ戻っても、いつ、単身で乱入に及ぶ不所存者がないとはかぎらぬ。それは、わしの方から遣るとしよう。そちは其方だけと思うて存分に働いて欲しい』
『承知いたしました。場合に依っては、このまま、お暇も告げずに、彼地へ発足いたすかも知れませぬ』
『折々の事は、文書がよろしい。かえって、そのほうが目立つまい。隠密は、此方のみの働きと思うと間違うぞ。内蔵助ほどの男だ、抜け目のあろう筈はない。彼の細作も、立ち廻って居ろう。或は、兵部の邸のうちにさえ、臭い者がいるかも知れぬ、気をつけてゆけ』
路銀を与えて、兵部は又、云い足した。
『――然し丈八』
『は』
『必ず共、赤穂の旧藩士共に、挑戦いたすような振舞は、屹度つつしまねばならぬぞ』
『心得て居ります』
『要は、内蔵助の本心に、世上で取沙汰いたすような事実が、あるかないか、それだけを突き止めることだ。浪士共の動きも、そこに重点を置いて観れば自ずと解ろう』
『丈八も、その儀と、考えております』
『露骨に、上杉、吉良の両家が、彼等を監視しておると知れては、世上の風聞もわるい、また、却って彼等の憤激を助けて、吉良殿のお為めにもよろしくない。