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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

よけいな心配だ』

『然し――潮田氏と私とで、今宵、手に入れた書付によれば、亡君の御一周忌の法要に赤穂へ参られた大石殿のうしろには、十八尺とか申す男が、尾け狙っているらしいのです。――で、これから又之丞殿と二人して、大石殿のお旅先へ、警固のため、お迎えに行こうと、途々相談して来た処ですが』

『行かんでもよい』

膠なく云って、後を、口の裡で、

『――そんな不覚な大石殿か』

と、呟いた。

同時に、十内は立っている。これから、寺井玄渓の家へ、碁の約束があるから出かけると云うのだ。妻女が、出口へ草履をそろえた。それへ十内が足を乗せて格子戸へ手をかけると、軒下に人影が見え、

『小野寺様』

と、訪れた者がある。

『おう、主税殿か』

何か急用でも起ったのか、山科から来た内蔵助の子息の主税だった。一通の飛脚状を持って、父が旅先であるから父に代って開封していただいたらよかろうと、母のお陸に吩咐けられて使に来たのですと云う。

『どれ……』

と、十内は書面を受け取って、

『おお、萱野三平父、七郎左衛門とある。はてな?』

小首をかしげながら、

『幸右衛門、行燈を――』

と、奥へ云った。

淀川往来