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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『何。――土屋殿は、いつ高家衆になられた。お許は、土屋殿のお指図をもって、此度の饗応を勤めらるる御所存か』

『決して、左様な思慮ではござりませぬが』

『御老中、御老中と、よう足まめにお運びじゃな。人は知らず、吉良家古来の故実には、吉事の大賓を迎える日に、墨絵のものを使用した例はござらぬ』

『恐れ入りました。早速に、彩画の物と置き替えまする。何事も、質素にと、土屋殿の仰せがありました為』

『又、土屋どのか。一にも、二にも、土屋どのでは、高家は木偶じゃな』

『悪意にお執りなされては、内匠頭、当惑仕りまする。至らぬかど、不束な節は、何とぞ、仮借なく、仰せくだされますように』

主人の蒼白い顔が、板敷へつくばかりに伏しているのを見ると、家来たちは、氷のうえに、坐っているような危さと、熱涙とで、胸が塞がれてしまった。

しいんと、漲り切った一同の頭のうえで、突然、入歯をこぼすような皺嗄れた上野介の笑いがひびいた。

『ば、ばかなっ! 木偶が、生きた人間に、ものを教えたら逆さま事じゃ。御勝手に為されたがよい。随分、御随意に、おやんなさい』

黒い大紋の袖が、さっと、内匠頭の髷先を払った。