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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

ました』

『そうか』

内匠頭は、まず安堵をした容子で、やっと席を立った。家臣たちは、自分の呼吸をやすめるよりも、主人が奥へゆく姿をみてほっとした。

急いで、席を抜けた者がある。神崎与五郎と堀部安兵衛であった。暗い御厩舎の側で、誰か、ざぶざぶと水づかいをしている。そこを覗いて、

『富森っ』

『助右衛門はいるかっ』

声を聞くと、襷をかけて、馬たわしを持って濡れていた助右が、

『おう、これに居る』

『頼みがある』

『なんだ』

『その馬で、すぐ、殿の御相役、伊達左京介どのの御持ち場を見て来てくれ』

『何を見届けてくるか』

『畳だ』

『よしっ』

濡れ襷のまま、富森助右衛門は、馬にとび乗った。

朧夜を、一鞭あてて、増上寺の伊達家の宿坊へ行って、窺ってみると、何と、青畳の香がぷーんと高い。下部の部屋まで、畳は新しく替えられてあるではないか。

『さてこそ』

と、助右は、息もつかずに、馬を返して、その通りに復命すると、神崎、堀部の二人は、顔を見あわせて、

『そうかっ!』

両家老に告げる。家中を呼び集める。

休息する間もなく、寝耳に水を浴びせられた内匠頭は、

『又しても、上野介め、当家を騙かり居ったか。