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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
――後に。
内蔵助として、残念におもわれて、ならなかったのは。
(もし、自分が江戸に居たら)
であった。
自分が、江戸家老の職にいたら、そこはずいぶん、殿のお考えを更え得たであろうにと悔やまれてならない。吉良への進物などは、些細も些細、あの好々爺をホクホクさせることなどは、余りにたやすい事でありすぎる。
五万三千石の世帯の百分の一も費う気だったら、あの老人をして、内匠頭の袴のチリを払わせ、藩士一般にも、お世辞たらたらを云わせるぐらいは、何の造作もない事だった。
そのほか、あなたこなたの職掌向きも、茶屋酒、用うべし、脂粉の好みには、女も供えてやるがよく、小判小粒ですむところは、なぜ、手でつかみ出して、撒いてやらなかったのか。――自分が江戸詰でいたら、自分も大いに楽しみつつ、大いに犬仲間の犬の一匹になってやって見せたのに、と思う。
世はお犬様の世である以上、二本の大小にとらわれて、それができなければ、大小は捨てるしかない。大名は大名をやめ、侍は侍をやめ、役人は役人をやめ、山野の外に巣父許由の故事に倣い、耳を洗って、独り高しとしていなければなるまい。
それがいいか。