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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『汝のような犬侍に名をいうのもけがれだ。俺はな、赤穂藩とは、何の縁故もない他藩の武士だが、余りといえば、腹が立つ。な、なんだ、そのざまは! それが、赤穂の旧城代家老ともある人間の姿か』

『……そ、その事で、お腹立ちか。恐れ入った。平に、平に、お見のがしを』

『何、見のがしてくれ。よくも、左様な腰抜けことばが吐ざけたものだ。これっ……やいっ……馬鹿家老』

土足を、内蔵助の肩にのせた。ぐいぐいと、蛙でも踏むように押しつぶすのである。内蔵助は、土で摺り剥かないように、大地と顔のあいだへ手をさし入れていた。

『――聞けば、赤穂浪人の軽輩の中には、亡君の無念を胆に銘じ、吉良殿の首を申しうけんと、臥薪嘗胆している者もあるそうな。――然るになんだ貴様は、主君の存生中は、一藩の上に立って、高禄をむさぼり居った身でありながら、仇も報わず、家には妾を蓄え、出でてはだだら遊び、武士とは、こうしたものかと、世間のわらい声が、その耳に入りおらぬかっ。――武士の面よごしとは、貴様のことだ。――腰抜けめ! 人間か!』

『ア痛っ……ア痛々』

『痛いのがわかるなら、少しは、性があろう。口惜しいと思わば、起ち上って、勝負をせい』