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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『まあ上られい』
階下を、憚るように、二階へ導いてゆく。
梯子段を踏む前に、ちらと、奥に見えた女達の群は、一人の僧と、町人態の男を交え、行儀わるく輪になって坐りながら、この頃流行りの加留多を散らして遊んでいた。
『――さて、その後はつい』
堅くなって、しかつめらしく改まる主人の挨拶を、客の源吾から気軽に打ち消して、
『いや、不沙汰はお互い。……何か、折角、お娯みのところをお邪魔したようだが』
六郎左衛門の顔つきは気の毒なほどだった。どぎまぎして、手を襟くびへやりながら、
『やあ、どうも……ハハハハ、お目にとまったか。浪人の身というやつは、閑でこまる。――と云うて、吾々、盟約のある者は仕官もならず、また、世間に左様な気振りの見える生活もまずいでな……』
『実は――』
と、貝賀弥左衛門は、懐中から一通を出して、
『きょうは、その儀で訪ったのじゃ』
『その儀とは』
『赤穂の御城内で、吾々心を同じゅうする者が取り交した血判の誓書を、大石殿のお考えが変ったので、お戻しに参ったので』
『ほう? ……ふウむ……』
解せない眉をひそめながら、六郎左衛門は、自分の前に出された自分の血盟書を暫く見つめていた。