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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

と二人は、内蔵助の緻密な用意が、二重底か三重底か、迚も自分たちには測りきれない気がした。

その用務も終った日である。報告をかねて、源吾は一人で、四条の梅林庵へ内蔵助を訪ねた。

石を築き泉を掘って建築した彼の山科の別業は、円山会議のあってから間もなく、もう人手にわたしていた。家財のうち、お陸や幼児に必要な物は但馬に送り、後は町医の寺井玄渓の手を経て、あらかたは売り払ってしまった。

梅林庵の役僧は、源吾のすがたを見ると、

『ああ、生憎でござりまする大高様。内蔵助様は、玄渓様のお宅へぶらりとお出かけでござります』

『や、左様か。――では、寺井の宅へ寄ってみましょう』

すぐ廻ってみると、内蔵助は、寺井玄渓親子と奥の一室で、一酌交していた。

『ようござられた』

玄渓は、援兵を得たように、

『源吾殿からも、ぜひ一つ、大夫へお口添えを願いたい』

と云う。

お軽が家

訊いてみると、話はこうだ。

玄渓は、元禄十三年、浅野家があの凶変を招いた前の年に、禄三百石で赤穂のお抱え医になったのである。

奉公した日こそ浅いし……職分も医者でこそあるが、心は藩士たちと変らないつもりである。