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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『源五右衛門に、与五郎奴でござります』

『オ、片岡、神崎の両名か。連日の辛労、うれしいぞ。ゆるす、入れ』

『へへっ』

二人は、居ずくまった儘、障子だけを開けた。幼少から自分の側を離れないこの二人が、眼に涙を溜めているの見ると、内匠頭も瞼が凝っと熱した。

『なんじゃ、急用か』

『左様にはござりませぬ。実は、畏れながら、数日来、めっきりと御血色がすぐれぬやに拝しまする。私共、不つつか者を御手足に遊ばして連日の御大役、さだめし、もどかしくも思召され、又、高家衆との折合いにも、御不快な数々は、御推察いたして居りまする。が、早や、今日も十四日、後三日の御辛抱にござりまする。何とぞ、御奉公のおん為、又、小さくは私たちをも、不愍と御堪忍あそばされて、凝っと、お怺えくださいますように、お願いに参じましたのでございまする』

『……わかっておる』

内匠頭の睫毛には、あやうい光が、草の葉の露のように、ささえられた。

『よう、云ってくれた。案じてくれるな。――きのうも、余が刎頸の友、加藤遠江守どのから、そち達と同じような忠言を懇々と申された。上野介めが、無礼沙汰は、この度ばかりではなく、遠江守どのが、大猷院様の御法事を勤められた折も、言語に絶した振舞があったと申す。