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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
『もし……』
その肩へ、善兵衛は手をのせ、店にいる右衛門七のほうを見ながら囁いた。
『お前さんは、ほんとに、彼男を思ってくれるんですか。――真実、右衛門七が可愛いならば、叔父の私だって、考えもあるんだが……』
『善兵衛さん……』
ぺたッと、坐り崩れて――、
『なんで嘘や冗戯に』
『うむ、それやあそうだろうが、若い人というものは、一時はかあっと逆上せても、醒めるという事があるからな』
『おねがいです。わたしがそんな女かどうか、彼の人と添わせてくださいませ。きっと添いとげて――』
可憐しい一心が濡れた眸にこう云わせるのだった。
(――ああ罪だ)
ふと、与五郎の善兵衛は、そんな弱い気持に暗くなりかけたが、
(大義の為だ!)
小さい自己の良心を捻じ伏せるように眼を反らし、いきなり彼女の腕くびを強く掴んだ。
『今のお言葉に、間違いがないならば、きっと甥の右衛門七に添わせましょう。――今年、急にというわけには行きかねるが、来年の春にでもなったら、この小間物屋の暖簾を頒けて――』
『えっ、ほんとに』
『だが』
と、娘ごころの一心に燃える眼を、善兵衛はじっと見つめて、
『夫婦の誓いは、生涯の運さだめ、もしお粂さんに心変りでもあると、叔父として、この善兵衛の立場がない。