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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『お邪魔さま』

立矢の字の後姿をならべて、そこから遠くない吉良家の通用門のほうへ歩いて行った。

『右衛門七、暖簾棒を』

善兵衛は、外に出て、軒暖簾を外しにかかった。

そして間もなく、戸をおろして、内から鍵をかって置いて、二人は裏口から顔をつつんで何処かへ出て行く――。

米櫃へ米は取っても、男世帯なので、晩飯はよく外へ喰べに出かけた。西両国の屋台だの、薬研堀あたりの茶飯屋などへ。

お粂と、約束の時刻まで、頃あいよく一酌飲んで、ふたりはぶらりと松坂町へ帰って来た。

その事もあるし――またべつに今夜は、前原伊助の米屋五兵衛の宅に、寄合いの密議もあるので、それへも顔を出すわけだった。

『右衛門七、左右に気をくばれ。……後はおれが見届けておる』

善兵衛の神崎与五郎は、矢頭右衛門七を先に立たせて、約十間ほど後から歩いていた。

与五郎は頭巾を――右衛門七は蝙蝠羽織を頭からかぶっていた。勿論、夜歩きの時には、大小を帯びて出るし、自ら身ごなしも武士に返っているので、近所の衆とすれちがっても、小間物屋善兵衛の叔父甥とは気のつく者はないであろう。

『其処。――その辺』

うしろからいう与五郎の小声に、右衛門七は立ちどまった。