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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

他出には笠を用い、近所へ出るにも、種々に姿を変えて歩いていた。

『ええ、しまった』

新見弥七郎というのがその男の名だった。上杉家の米沢領から選抜されて来た十一名の剣客のひとりなのだ。

辻の彼方を見まわして、地だんだ踏みながら、

『貴公が落着き払っているまに、とうとう、臭い奴を逃がしてしまったではないか。――確かに赤穂の片割れだ』

『臭い者とは、お身の事ではないか』

『こんな場合、冗談はよしてくれ』

新見は、全身の溝泥に鼻をしかめて、

『大須賀や斎藤と、二つ目まで出て、ちょっと一杯やっての帰りだ。酒も何も醒め果ててしまった。……然し、残念なことをした』

『何処で』

『そこの椎の木の下だ……』

と、先に立って戻りながら、

『そうだ、御邸内から何か投げたものがある。――油断も隙もならないぞ、清水』

溝を覗いて、板絵図の半分を抓み上げた。そして清水一学に示しながら、

『これだ……』

『これを御邸内から』

『む。誰の仕業か、さっそく取り糺す必要があろう。これを見ても、今のが、赤穂浪人だという事はもう疑う余地もない事だ』

『彼奴等も、すこし焦躁って来たな』

『糧道が苦しいのだろう。自暴という奴だ。