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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

『所で、その後、貴公は何うだ』

『この通りに――』

と、一学は両膝へ手を張って、

『健在だ』

『貴公は、酒が飲けるからよい』

『酒でも参らずば、退屈で何うもならん』

『御用無しか』

『用のあろう筈がない。これだけの御邸内に、米沢から来た剣客を除いても、新規お抱えの浪人が、二、三十名、その他中間小者まで加えれば、百何名かの御使用人が詰めているのだ』

『そんなに居るかの』

『御主人といえば、今では、奥方はお実家方だし、御子達やお孫たちは無いし、上野介様と、御養子の左兵衛佐様とたったお二人の暮しに過ぎぬ。――だから用事といえば、雇人の為の雇人の用しかない』

『夜は』

『一夜交代』

『それがなかなか気疲れだろう』

『なあに』

一学は、顔を振った。然し、寂しい顔だった。

『気疲れがするようでは、さあと云う時に物の役には立つまい。役に立たぬと云えば、新規にお抱えになった剣客たちのうちで、いざという場合、幾人がほんとの生命を投げ出して働くか、その辺は、心もとない気がする』

『む、む……』

丈八も同感だった。俯向いて、暫く沈黙していたが、ふと、顔を横にして次の薄暗い小部屋へ目をやった。不審そうにその目を一学の面へ向けて、